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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1376号 判決 1968年9月18日

理由

一《証拠》によれば、被控訴人主張の(一)の事実を認めることができ(もつとも、その一部は当事者間に争がない。)、同(二)、(三)の事実、(四)の事実のうち、被控訴人がその主張のとおりの代物弁済予約完結の意思表示をしたこと、および(五)の事実は、いずれも本件当事者間に争がない。

二、よつて、つぎに、控訴人らの抗弁について判断する。

(一)  一般に、債権者が、その債権担保のため、債務者所有の不動産について、抵当権の設定をうけると同時に、同一の不動産について代物弁済の予約をした場合において、その不動産の価額と被担保債権額とが合理的均衡を失し、あるいは被担保債権が継続的取引から生じる不確定なものであるときは、該代物弁済予約は、特別な事情がないかぎり、予約完結の意思表示により、債権者は、該不動産の所有権を取得するが、これを換価処分または評価したうえ、被担保債権額をこえる部分は、これを債務者に返還すべきであり、また、債務者は、予約完結後であつても、債権者が該不動産を処分しない間は、いつでも被担保債務を弁済してこれを取り戻すことができる趣旨であると解するのが相当である。したがつて、特別な事情のない本件においては、被控訴人が、予約完結の意思表示により、本件土地の所有権を取得しても、同控訴人に対し、右清算義務を負い、あるいは、同控訴人は被担保債務を弁済してこれを取り戻すことができるのであるから、被控訴人は、本件土地の所有権を取得することによつて、暴利をうることにはならない。

よつて、同控訴人の、代物弁済予約ならびに予約完結の意思表示が、民法九〇条により無効であるとの抗弁は、いずれも理由がなく、同控訴人は被控訴人に対し、所有権移転の本登記をする義務を免れることはできない。

(二)  一般に、債権担保のため、債務者から、その所有物件の譲渡をうけた債権者が、該物件についての後順位権利者に対し、行使しうる権利は、自己の債権についての優先弁済権を主張してその満足をはかる範囲に制限され、その範囲をこえて全面的に所有権を主張することは許されないものと解すべきである。しかし、本件においては、《証拠》によれば、本件土地の価額は、本件代物弁済予約完結当時ならびに現在においても、被控訴人の被担保債権額である四、四六八、六五六円を下廻ることが明らかであるから、被控訴人が本件土地を代物弁済として取得した場合、右土地価額全部を同人の右債権の弁済に充当することができ、債務者に返還しあるいは後順位の権利者の取得しうべき差額金を生じる余地はない。したがつて被控訴人の控訴人大洋興産株式会社に対する本件土地についての優先弁済権の主張は、すなわち本件土地についての所有権の主張と同一に帰し、被控訴人の仮登記後に所有権取得の登記をした同控訴人は、前記本登記についての承諾を拒む理由がないものといわなければならない。

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